「それで、ちゃんとものは撮れたんだよな?」
「あー、一応な」
「でかした大成功じゃん!マジで高く買い取るからっ!!」
「ん…まあまた後で、んじゃ」
俺は、ほとんどパソコン画面に気をとられながら素っ気ない返事をし、電話を切った。
写っているのは、性的に責められる少女の動画。というか、今日会って撮ってきたビデオ。
俺の友人は、自分で作ったこういう動画で稼ぐ、らしい。
腐れ縁の友人なので、それを手伝ったことは幾度となくあったが、ピンチヒッターとして本当に一人で撮ってきたというのは俺は初めてだ。
撮影。拘束。おもちゃ責め。それは全部やったことがあったし、まあ何とかなるんじゃないか(ならなかったらそれまでだ俺に頼むほうが悪い)と思って、引き受けて。結果的には、彼が言うように大成功だったわけだが。
『あん、やぁ…お兄さん、ひぅうっ、おかしくなっちゃう…よっ…ふあぁぁあんっ』
少女は拘束されているし、挿入するのはおもちゃだから、俺の顔はほとんどなく、あっても後ろ向きや判別できない程度にしか写っていない。カメラが固定でも、そのくらいは気を遣って「きちんと」「仕事を」した。
でも、このビデオに写っていない部分や細かい表情まで、俺は鮮明にすべて覚えている。
『お兄さん』と自分を呼ぶ声、折れるんじゃないかと抱きしめた時に心配になったほど細い肩、掌に吸い付くような透き通る肌。
『真悠ちゃん』
ビデオの中の「お兄さん」は、なんといういやらしい、酷いことをする奴なんだろうな。声だっていかにも悪人だ。
少女の名前を呼ぶ、「お兄さん」の口調は次第に変化していく。冒頭はいかにも馴れ馴れしく知り合ったばかりの少女の名を口にしているが、特に終盤には呼ぶ前に少しのためらいの「間」がある。
…そんなことは、興味本位でこのビデオを見るであろう人々は全く気づかないだろう。ゆえに、記録としては重要ではない。友人すら気づかないかもしれない。
でも俺は、この映像を世の中に送り出したくなんかないわけで。
撮影の手伝いをした時とは、全然違う…こんなことになるのなら、引き受けなければよかった、と思う。
『私っ…、ごめんなさい…ごめんなさいぃっ』
少女の謝る場面になった。よくあるシナリオのような展開、多分何も知らない視聴者には、それだけ。
少女が本気で謝っている事など、知る由もない。
「いい子すぎんだよ…真悠ちゃん。」
見ながら、つい一人ごちていた。
自分は、友人のようにはできない。今回の色々な事項でそう思うし、一番には、情を持たないなんて、無理だ。
まあ、俺には幸い本業があるので、自分のそういうところを知らないでそれで食っていく事態にならなかっただけ幸いである。
普通の恋愛では一目惚れなどするほうではないが、やはり情交を持つと怖いものだな、と思う。女日照りが続いているので、それも敗因だっただろう。
今日びの少女というものは、流行にばかり流されて生意気で、口は立つが考えることをせず議論もできない、自分にとっては何一つ魅力のないものと思っていた。若ければいいというものではないと。
それなのに、彼女をあんなに可愛らしいと感じた不思議。そういえば、「少女病」という言葉すらあったなと。
こんなに胸が痛いとは。甘やかな少女は、甘やかな毒を持つに違いない。
でも忘れるしかない。ビデオは、間違って消してしまったと言おう。
…この胸の痛みも、簡単に消せればいいのに。
+ + + + + +
深夜。
眠るためにナツメ球の仄かな明かりの中で横になって、俺はずっと考えていた。
とある文字列。記憶力は悪くないほうだし、その文字列はその手のものには珍しく、長い割に存外覚えやすいもので、しかも俺の好きな言葉が入っていた。しかし確実に全部あっている自信はない。
しかして「それ」をどうするのか。実行していい事なのか。
眠れぬ頭で暫く考えた後に、俺は携帯でメールを一通作成し、送信ボタンを押した。
十中八九、戻ってくる。そんなものだろう。
…1分。5分。10分。着信音は鳴らない。
…。
出したことを非常に後悔しつつ、余計目が冴えてしまったので、眠らないと仕事に差し障るため酒の力に頼ることとする。
表の商店の自販機で缶ビールを買うと、その隣の公園からふわりと、春の香りが漂ってきた。今が盛りの桜だ、花を見る余裕も最近はなかったなと改めて認識する。
「花見で一杯、なんて粋じゃね…」
一瞬、ごう、と風が花びらを巻き上げた。それと同時に、メールの着信音がポケットの中からかすかに、しかし確かに聞こえた。
《件名 Re:月がきれいですね》
こんなに差分を作ったのは初めてだし、こんなに文章を書いたのもかなり久しぶりな気が。
あらためて、砂を吐くような話しかかけないんだなと…すみませんorz
拘束でおもちゃ責めとかでもこうなんですよもうどうしたらって感じ。
絵も文章も、やらしくしようと努力はしてるんですがねえ…。なってるのかねえ。
(2012/4)